
問題意識
競争戦略の本質競争戦略の本質というのは、いかにして戦うかにはありません。
一般的には、「いかにして戦うか」の長期的な計画だと思われがちですが、競争戦略論の教科書では逆の発想をします。すなわち、長期的な時間幅で「いかにして戦わないようにするか」を考え抜くことにあるわけです。なぜなら、同じ顧客に同じ製品やサービスを売り込んでも、ライバル他社と血みどろの価格競争に陥ってしまうからです。
この発想をつきつめると、差別化戦略、あるいは市場創造戦略にたどりつきます。ただし、大切なのは製品やサービスレベルの差別化ではありません。そのレベルで違いを生み出しても、ライバル他社にすぐに真似されてしまいます。むしろ、差別化を、生産システム、流通チャネル、顧客リレーションを総合したビジネスモデルのレベルにまで高める必要があるのです。ビジネスモデルによって裏打ちされた差別化は、あまり目立つことはありませんが、一旦その優位を築くと長持ちします。
模倣困難な仕組みの創り方
興味深いのは、他社からは、なかなか模倣できないビジネスモデルであっても、ゼロから創り上げられているとは限らない点です。むしろ、海外から移植されたり、異業種から移植されたりして築かれることが多いように思われます。言葉を変えれば、大なり小なり模倣によって築かれているということです。その移植や模倣のプロセスで、さまざまな試行錯誤を積み重ね、誰にも真似されないようなものに発展させるのです。模倣できないビジネスモデルが模倣によって築かれるという、模倣のパラドクスです。
私は、世の中には、少なくとも2つのタイプの創造的な模倣があると思っています。その1つは、自らを高めるために、遠い世界から意外な学びをするという模倣です。ビジネスの世界で言えば、優れたお手本からインスピレーションを得て、独自の仕組みを築いていくような模倣のことです。もう1つの創造的な模倣は、顧客の便益のために、悪いお手本から良い学びをするという模倣です。それは、業界の悪しき慣行を反面教師にして、イノベーションを引き起こすことまでも含みます。
私たちの研究室では、ビジネスモデルをカギ概念にして、事業創造や競争戦略のダイナミズムについて探求します。同時に、将来、競争戦略を立案したり、事業を立ち上げたりするときに役に立つ、コンテクスト分析の枠組みやアナロジー発想の方法などについても学んでいくつもりです。
使命とビジョン
ミッション
・知を楽しみ考動する知識人を育成する。
「商学」とは、金儲けのための学問にとどまるものではありません。「商学」とは社会のさまざまな課題をビジネスという手段で解決して、人々を幸せにするための学問です。現段階で未解決の課題を解決するためには、イノベーション、とりわけビジネスモデルイノベーションを引き起こさなければなりません。これを創出するための知力と行動力を鍛えていきます。
イノベーション創出力 = 知力 × 行動力
ビジョン2025
・日本におけるビジネスモデルの「研究と教育」をリードする。
研究目標
・ビジネスモデルを学術研究にすべく概念やアプローチを整理して実証可能にする。
・ビジネスモデル概念を導入することで解明できる興味深い現象を明確にする。
教育目標
・各界で活躍する人材・イノベータの輩出
・フレームワークや教育手法の開発
研究ドメイン
ビジネスモデル ― 学術研究のフロンティア
近年、社会におけるビジネスモデルの関心は高まりつつあります。Web of Scienceで検索をかけてみると、2007年には402件であったのに対して、2013年は1017件、2017年には2231件にまで伸びています。
つまり、国際的な視野で見たときに、新聞や雑誌や論文でビジネスモデルが取り上げられる頻度がますます高まっているということです。
しかし、ビジネスモデルについての学術研究は十分ではありません。まだ確立された定義がなく、どのように調査研究すればよいかわからないからです。この概念があまりにも包括的だからでしょうか。杓子定規な研究アプローチでは解明するのが難しく、多くの研究者がひるんでいるかのように見えます。
経済社会において解明が求められているにもかかわらず、学術がその要望に応えられていない。この状況を鑑みて、私たちは研究テーマをビジネスモデルに絞ることにしました。
研究ドメイン
・ビジネスモデルのパターン化に向けた事例研究
・収益性についての実証研究
・アナロジーについての実験研究
・創造プロセスについての事例研究
そのほか